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アメリカ生活を思い起こすと…

2014.7.21

突然だが、私用で数カ月ほど日本に帰る事になった。

ニューヨークで働き始めて以来、これほど長く帰国するのは初めてだ。住んでいない部屋の家賃を払い続ける余裕はないので、荷物をストレージに預けてアパートを引き払ったり、友達としばしの別れを惜しんだりしていると、数カ月で戻ってくるにも関わらず感傷的になり、これまでのアメリカ生活に思いを馳せてしまう。

思えば、ニューヨークに来たばかりの6年半ほど前、地下鉄の駅や道路で、通りがかりのおじさんたちに、よくこんな言葉をかけられた。

「ちょっと笑ってみ」

最初の2カ月くらいで少なくとも3、4回は言われたから、かなりの頻度だ。
確かに、 ボーっとしているだけでも「また何か企んでる」といわれのない難癖をつけられる事もしばしばの私の濃顔は、本当に考え事をすると真に迫る迫力を持つ、時もあると我ながら思う。本当にやっていけるか半信半疑のまま、勢いでとりあえずアメリカに来て、いつ何時も心に余裕がなく必死だった当時は、「それほど他人の事に干渉しない」ニューヨーカーたちも思わず声を掛けたくなる程度には思いつめた顔をしていたのだろう。

とっさの英語を聞き取るのも精一杯だった私が、とりあえず笑ってごまかすという悪しき習慣と「スマイル」という単語を聞き取った事で反射的に頬を緩ませると、おじさんたちも笑顔になってこう返してくれるのだ。

“Way to go!”

just smile1
信号待ちでふと下を見たら張ってあった
こういうのを見つけると嬉しくなってしまう

「並びの良い白い歯」がやたら重要視される事からもわかるように、アメリカは日本よりも笑顔に敏感なように感じる。特に、人の笑顔を求めるのだ。

長所と言えるその特徴を時に疎ましく思い、“Have you laugh today?”と呼びかけるチーズのテレビCMに、「うるさいな」といちいち毒づいていた私も、6年以上が経過した今ではもう知らないおじさんに笑顔を求められる事もなくなった。

それが、しょっちゅう大笑いするようになって、普段の表情が少しは柔らかくなったからなのか、他人さえも心配にさせる迷子のような佇まいがなくなっただけなのか自分ではわからないが、街のあちこちで見かける「笑顔」を求める広告や落書きを見るたびに、来た当時を思い出して何となく温かい気持ちになれるのだ。

smile more
SOHOの空き地にあったポスターか落書き
「もっと笑うか」と思う

 

Takayo Mashiko / 増子 貴世

ディレクター、ニュース原稿ライター
かに座、AB型
好きな事 : 書くこと,歩くこと,喋ること
趣味/仕事 : 人が笑顔になれるニュースを探して日本語にする